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学会からの提言

これからの小児歯科保健のあり方について

1.小児歯科保健を推進する制度・組織の現状と課題および対策

(1)行政
【現状と課題】

現在実施されている1歳6か月児歯科健診や3歳児歯科健診は法的健診として、大変重要な健診であり、全国的に90%以上の高い受診率を維持しているが、それでも受診していない10%弱の子どもたちが将来に亘って歯科疾患に罹患して不利益を蒙るのではないかとの懸念がある。また、未受診者の中の一部に育児放棄と思われる子ども虐待の可能性も排除できず、保健師等の積極的な介入が必要である。すでに1歳6か月児歯科健診の際にむし歯が多発している子や、1歳6か月児歯科健診ではう蝕有病者率もそれほど高くなかったけれども、3歳児歯科健診では急に、う蝕有病者率が高くなってくるのも事実であり、それに対する対応が求められている。

また、保育所・幼稚園への嘱託歯科医師の配置はかなり達成できているようであるが、定期的な歯科健診の実施や園児・保護者に対する歯科保健指導、研修会の開催、健診データの集積等については、まだ徹底していないのが実状である。

【対策】
  1. ア. 生後10か月児および2歳児の法的歯科健診の実施
  2. イ. 1歳6か月児歯科健診や3歳児歯科健診の未受診児に対する事後健診の実施
  3. ウ. 保育所・幼稚園への嘱託歯科医師の100%配置および健診データの集積
  4. エ. 保育所・幼稚園での年1回以上の歯科健診および保健指導の実施
  5. オ. 就学前の小児の医療費の全国的無料化
(2)歯科医師会
【現状と課題】

2007年に提言された日本歯科医師会2015年までの中長期的展望を示す「歯科保健・医療政策ビジョン」の中には、「ライフサイクルに応じた保健・医療・介護の法整備を軸として、歯科保健(健診)、歯科医療連携確立のための政策策定」が掲げられているが、小児歯科保健の重要性には言及しているが、具体的な提言はなく、地域の事情に合わせた歯科保健・医療・福祉対策の構築と、診診連携の中で、専門医との連携についてふれられているだけである。

現状は、各都道府県、各市町村での対応には、かなりの開きがあるため、結果として国民に対する歯科医師会の役割が十分に機能していないのが実状である。

【対策】
  1. ア. 日歯を頂点(起点)とする各都道府県歯科医師会や各郡市歯科医師会における情報の共有化
  2. イ. 各地域間に格差のある小児歯科保健サービスを均一化するため、歯科医師会内における小児歯科保健担当委員ならびに公的健診担当者の育成と強化
  3. ウ. 全国の日本小児歯科学会会員の積極的な小児歯科保健推進への活用
  4. エ. 各地域の現場における小児歯科保健に関する要望、改善策、先進的モデル事業の結果等を日歯が集積・分析・評価を行い、有益で効果的な事業を全国で推進できるようなシステムを確立する
(3)大学
【現状と課題】

大学の小児歯科保健に関係する分野では、小児歯科と予防歯科(口腔衛生)の講座がそれぞれ別個に対応している場合が多いようである。大学の運営や管理上の利点はあるが、患者さんである子どもたちにとっては、効率良い医療サービスの受給という観点からすると、問題点が多いのが実状である。

また地域の保健計画の立案や医療計画、高次歯科医療機関としてのシステム構築における大学の役割は重要であるが、各大学が地域に密着した機関として十分に機能していない例もあるようである。

さらに、教育機関としての機能を果たしている大学としては、各大学間の格差のない、医療だけでなく小児歯科保健の最新技術と知識を身につけた学生教育体制の確立が望まれている。

【対策】
  1. ア. 地域歯科医師会との定期的な協議会を設置して、大学と歯科医師会(開業医)との連携協力体制をしっかりと確立する
  2. イ. 大学内で小児歯科と予防歯科(口腔衛生)、矯正歯科等の小児歯科保健を推進する各科相互の臨床やフィールド活動における連携協力体制を確立する。
  3. ウ. 学会が主体となって、大学間に教育格差のない、最新最良の小児歯科保健教育を実施できる体制を確立する。
(4)歯科医院
【現状と課題】

それぞれの地域における「かかりつけ歯科医師」としての定着がはかられているが、現状はやはり、痛みなどを主訴とするう蝕をはじめとする歯科疾患の治療が中心となっている。しかしながら、歯科医院は医科の医院に比べて、定期的かつ長期間通院する場合が多いため、子どもにとって医療機関としてだけでなく、様々な問題の相談役になる機会も多いのが実状であり、そのメリットを生かす役割を今後考えていく必要がある。

【対策】
  1. ア. 地域における小児の歯科保健の情報はもとより、子どもに関する様々な情報を発信し、保護者を対象とした研修の場とする
  2. イ. 保育所・幼稚園、学校、施設、行政、歯科医師会、学会、大学、地域等との連携を取り、いつでも相談や連絡ができる協力体制を確立する
  3. ウ. 小児歯科標榜医は少なくとも日本小児歯科学会会員となり、恒常的に小児歯科保健の研修を受けるようにする
  4. エ. 小児歯科医院が、歯科診療・健診の場としてだけでなく、子どもたちにとって、良い意味でのやすらぎとくつろぎの場、何でも相談できる「子どもたちにとって情報交換・癒しの場」になれるよう努力する
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