学会からの提言

イオン飲料とむし歯に関する考え方

公益社団法人 日本小児歯科学会(令和2年9月3日)

イオン飲料とむし歯

 厚生省歯科疾患実態調査(平成11年,平成28年施行)によると,小児のむし歯は過去17年にわたり確実に減少している。すなわち,平成11年,平成28年のむし歯罹患率は 3歳児でそれぞれ36.4%から8.6%に,5歳児で64.0%から39.0%と減少している。これは,養育者などの口腔保健に対する関心が高まった結果と考えられるが,ここへきて新たな問題が発生している。小児は口腔衛生管理のよいグループと悪いグループに大別され,悪い方のグループでは本来むし歯になり難い下の前歯がむし歯になってしまうことが多いのである。この傾向は,乳幼児のみでなく学童にも認められている。そして,この原因の1 つとしてスポーツドリンクの飲み方が関係していると考えられている。

 スポーツドリンクはイオン飲料のひとつとされているが、同じくイオン飲料に分類される経口補水液と比較して糖分が多いことが特徴である。

 むし歯の発生にはいろいろな原因が考えられるが,イオン飲料の飲ませ方の問題点と対策についてまとめた。

1.問題と背景

1) 乳幼児とイオン飲料

 テレビのコマーシャルなどにより,多くの保護者は市販されているイオン飲料は身体によいと考えている。汗をかいたときや,入浴後やのどが渇いたときに積極的に与える傾向がある。また,下痢や嘔吐による軽度の脱水に使用される。普通の食事をしている乳幼児にこれを与えると電解質が多くなり かえってのどが渇いてしまう。その結果,イオン飲料を絶えず飲んでいなければいられない状態となってしまう。歯の脱灰(溶けること)には、むし歯原因菌の酸産生による「むし歯」と、酸性食物の頻回摂取による「酸蝕症」がある。イオン飲料(とくにスポーツドリンク)は経口補水輸液よりも糖分の濃度が高く甘味がより強い(むし歯の原因)ので,習慣化する傾向がある。イオン飲料の pH は 3.6-4.6 (pH 5.4 以下ではエナメル質の脱灰が起こりやすい)と低く(酸蝕症の原因),イオン飲料が絶えず口腔内に残存するとむし歯のみならず,酸蝕症の原因となる。酸に対する緩衝能やむし歯原因菌の活動を抑制する作用のある唾液の分泌量が減少する就寝前や,夜中に起きたときにもこれを与えると 益々この傾向を助長する。

 もう一つの原因として,下痢や嘔吐で医療機関を受診したときに、輸液が必要でない軽度の脱水の場合は医師から市販のイオン飲料を勧められることがある。しかし,脱水が改善した後はイオン飲料による水分補給は必要ないという指導は殆ど受けていない。保護者はイオン飲料を水代わりにいくら与えても身体によい飲み物と思うばかりでなく,子どもも欲しがるので,それから後も積極的に与え習慣化してしまう。

 スポーツドリンクはナトリウム濃度が低く、また、経口補水液と比較して、糖度が高いため電解質の吸収は遅くなるため、とくに乳幼児の脱水時に与えると、低ナトリウム血症を惹起する危険性がある。

 イオン飲料を多量に与えることは肥満の原因となるばかりでなく,食欲不振など全身に悪影響を与える恐れもある。

2) 学童とイオン飲料

(1) スポーツ:いろいろなスポーツで運動し汗をかいたとき,イオン飲料を飲む傾向がある。これがきっかけとなりイオン飲料(とくにスポーツドリンク)のペットボトルを持ち歩き,だらだら飲みの習慣がついてしまう。この結果,乳歯と同じ理由で生えて間もない幼若永久歯がむし歯となってしまう。

(2) 塾通い:放課後に塾通いの学童も,行き帰りに食物と一緒に飲み物を買うことが多い。ここで、幼少期よりイオン飲料を常用する習慣が身についていると、水代わりにイオン飲料を飲む。電車の中でも,道を歩いていてもなんとなく飲む習慣がついてしまう。

 以上の学童の場合は自分で好きなだけ買うので,むし歯だけでなく飲み過ぎると肥満の原因となる。さらに肥満の学童の耐糖能を障害し糖尿病に気づかないで多飲するとケトアシドーシスや昏睡となる「ペットボトル症候群」となる危険がある。

2.対策

1) 乳幼児に対して:

* 過激な運動や極端に汗をかいたとき以外は,普通の水を与える。
* イオン飲料を水の代わりに与えない。
* 下痢や嘔吐で脱水症状がある場合は、経口補水液を飲ませる。症状改善後は、のどが渇いたときは普通の水を飲ませるようにする。
* 寝る前や寝ながらイオン飲料を与えないようにする。夜中にのどが渇いたときには水を与える。
* 入浴後は水を飲ませる。
* 寝る前に歯を磨く。やむを得ず,寝る前や寝ながら与えるときは水を飲ませる。あるいは,与えた後に綿棒や指先にガーゼを巻き口腔内を清拭する。

2) 学童に対して:

* 運動で汗をかくときは経口補水液を飲み,運動が終わったら,普通の水を飲む。
* イオン飲料のペットボトルを持ち歩きいつも飲む習慣や,食事をしながらイオン飲料を飲む習慣を付けないようにする。
* のどが渇いたときは水を飲む。

参考資料

イオン飲料とむし歯に関する考え方.小児科と小児歯科の検討委員会(平成16年1月16日)
豊田裕章:スポーツドリンクと経口補水液の違いを正しく理解しょう!小児歯科臨床、21(8):55-60 2016