学会からの提言

小児科と小児歯科の保健検討委員会

子どもの歯みがき

小児科と小児歯科の保健検討委員会
平成20年4月1日

はじめに

 口腔内を清潔にし、むし歯予防のために行う歯みがきは子どもにとって大切な生活習慣の一つである。そこで、幼児期後半までに睡眠・運動・食事の生活リズムを身に付けるのと同じように、規則正しい食生活に基づく歯みがきの習慣づけが大切である。元来、親子のふれあいの場として楽しい雰囲気で行われるべき歯みがきが、嫌がる子を無理にみがくなど、親子のストレスとなっていることもある。これは母子保健関係者が不十分な知識のままに指導していることも原因の一つと考えられる。そこで生活リズムの中で楽しい雰囲気での歯みがき習慣を身に付けるため、本委員会では小児歯科医、小児科医、臨床心理士、管理栄養士の立場より、歯みがきの原点に帰って、口腔内清潔、慣らしの準備段階、歯の生え方によるみがき方、歯ブラシ、留意点などの現時点における考えをまとめた。

1.発育段階別にみた歯みがきの考え方

1)
乳児期前半 −歯みがきの準備期−
 出生後、半年くらいは哺乳が主体の時期である。お乳を吸うためには歯が生えていない方が都合がよく、通常この時期には生歯はみられない。歯のない時には歯みがきは必要ないが、次に述べるように歯みがきの準備はこの時期から始まっている。
 哺乳期の赤ちゃんは、はじめのうち乳首以外のものを舌で押しだしてしまうが、生後2〜3か月ごろから見られることがある指しゃぶりや、4〜5か月ごろから観察される衣類・おもちゃなどをなめる・しゃぶる行為のように様々なものを口に入れて感覚を楽しむ行動のなかで、乳首以外のものを押し出す反射が弱くなり、この頃から赤ちゃんは自ら歯みがきを受け入れる準備をしているともいえる。
 また、この時期は身体の中で口唇や口の中が最も敏感なところで、歯みがきの準備の意味でも、口のまわりや口の中を触られるのに慣れておくことが大切である。最初は手足と顔や口のまわりを愛情をもって触ってあげ、それに慣れたら口の中をきれいな指で軽くふれたりするのもよい。指で触られるのに慣れていれば、ガーゼみがきや歯ブラシの導入がスムーズになる。口のケアの第一歩としてスキンシップから始めたい。
 この時期は、首がすわって周囲が見渡せるようになると、周りの人達の行動にも興味を示す。そこで親や兄姉が楽しそうに歯みがきをしているところを見せれば、家族が皆やっていること、ということがインプットされ、その後歯ブラシでみがかれることに抵抗も少なくなる。
2)
乳児期後半〜幼児期 −歯みがきの導入から自立へ−
 生歯が見られたら歯みがきを始める。しかし、いきなり歯ブラシを使うと「歯みがき嫌い」になることが多いので、歯の生え方をみながらガーゼみがきなどから始め、徐々に歯ブラシに慣れさせるようにする。
 この時期は、基本的には親がみがくことになるが、幼児期後半から徐々に歯みがきの自立にむけて準備にとりかかる。歯みがきの自立は学童期になるまでにできればよい。
 親が子どもの歯みがきをする時は口の中が見やすく、頭が固定される姿勢でみがく。幼児期前半までは、正座をした膝の上に子どもを仰向けに寝かせてみがく「寝かせみがき」(写真1)が推奨される。幼児期後半になって「寝かせみがき」をいやがるようになったら、立位で、親が後ろから子どもの顎を利き腕でない方の腕で支え、顔を少し上向きにしてみがく「立たせ後ろみがき(スターキーズポジション)」(写真2)でみがくと良い。
(1)
乳前歯だけのころ
 通常最初に生えてくる乳歯は下の前歯のことが多いが、下の前歯は唾液による自浄性が高く、むし歯になりにくいところなので、歯が生えたからと、すぐ歯ブラシでしっかりみがく必要はない。まず、親が座ってそこに子どもを寝かせて、話しかけたり、顔や口のまわりを優しくさわり、互いにリラックスした気分になってから、ガーゼや綿棒で歯を拭ってあげるとよい。これに慣れてきたら少しずつ歯ブラシを使い始めるが、まずは歯ブラシの感触に慣れることが大切である。
 上の前歯は唾液の届きにくいところなので、下の前歯より歯磨きの必要性が高くなる。上の前歯4本が生えそろうころには、ガーゼばかりでなく、歯ブラシでのケアも始められるとよい。とくに、上唇の裏側にある上唇小帯は,低年齢児では歯ぐきの方に長く付着していることが多く、ここを歯ブラシで強くみがくと痛みを伴うことから、子どもが「歯みがき嫌い」になるきっかけになりやすい。親がみがく時には、左手の人差し指を横にして上唇小帯の上に乗せ、歯ブラシが当たらないようにするとよい。ブラシを歯に当て、軽い力で細かく動かしてみがくと効果的である。
(2)
乳臼歯が生えるころ
a.前歯の歯みがき
 写真1のようにすわり、子どもの頭が親の腹部につくようにすると自然に首がやや反り、口の中がよく見えるようになる。膝のあたりに頭部があると見えにくい。
 後方から口の中を見ると下の前歯がよく見える。どうしてもそこからみがきたくなるが、下の前歯はむし歯になる確率がとても低いところなので最後にみがけばよい。
 上の前歯の外側(唇側)の歯みがきをする場合には、左手の使い方がポイントになる(右ききの場合)。左手の人差し指を横にして上唇小帯(写真3)の上に乗せ歯ブラシにふれないようにし、唇を持ち上げる。歯ブラシを歯に当て、横に短い振幅で震わせるようにして、少しずつ移動させる。力を入れすぎると毛先が寝てしまい、かえって汚れが落ちにくい。
 裏側(舌側)も外側(唇側)と同様に短い振幅で行う。寝ながら授乳されている子どもの場合には上の前歯の裏側に乳汁が長い時間残留し、むし歯の誘因となることがあるので、卒乳するまではていねいにみがくようにする。
 歯と歯の間に隙間のある子とない子がいる。隙間のある子では歯ブラシの毛先を使えば歯の間のよごれは簡単に取れるが、隙間のない子は糸楊枝(デンタルフロス)も使用する習慣をつけたい。
b.奥歯の歯みがき
 前歯の歯みがきはガーゼや綿棒でも可能であるが、臼歯の咬合面(食物を噛み潰す面)の溝や小窩(小さい凹み)は歯ブラシでないとうまくみがけない。そこで、最初の奥歯である第一乳臼歯が生えてきたら、歯ブラシを使った歯みがきが必要になる。第二乳臼歯が生えそろったら、第一乳臼歯との歯の間に歯垢や食物が詰まり易くなるので、糸楊子(デンタルフロス)も併用する。
 「寝かせみがき」や「立たせ後ろみがき(スターキーズポジション)」での歯みがきでは頻繁にうがいをさせることができないので、歯ブラシに歯みがきペーストを付けると飲み込んでしまったり、むせたりしてトラブルの原因になる。子どもの歯みがきの主目的は歯の表面をきれいにすることなので、歯みがきペーストが無くても問題はない。いつでもどこでもみがけるようにするためにも、この時期の歯みがきには歯みがきペーストは使わない。
 幼児期後半になると、子どもの手指の運動能力も高まるため、自分である程度までみがけるようになる。親も一緒にみがきながら、まず子ども自身にみがかせて、それから仕上げみがきを行うとよい。親がみがく姿勢は、子どもを立たせたまま後ろから子どもの顎を左手で支え、顔を少し上向きにしてみがく「立たせ後ろみがき(スターキーズポジション)」が推奨される。歯ブラシの動かし方には様々な方法が提唱されているが、大人が子どもの歯をみがく時に最も効果的である方法はスクラッブ法(ゴシゴシみがき)とされている。歯ブラシには強くない力(100〜150g)を加え、シャカシャカ・シュッシュといった音がでる感じで横方向にみがく。奥歯は外側と噛む面、内側、歯の間をみがくので、みがく順番を決めてパターン化するとみがき残しが出ないようになる。歯の間は歯ブラシだけでは不十分なので、時々糸楊枝(デンタルフロス)を使用する。なお、歯ブラシは毛先が歯の表面に直角に当たっていないと、みがきの効果があがらない。したがって、歯ブラシを歯に当てる時は毛が斜めになったりしないように、歯の表面に合わせて調節することが大事である。
 


写真1:寝かせみがき
 


写真2:立たせ後ろみがき(スターキーズポジション)
 


写真3:上唇小帯(矢印)
 

毎食後とおやつの後の歯みがきが理想的であるが、忙しい生活の中ではなかなか難しい。そこで、一番ゆっくりした時間が持てる夕食から就寝までの間、特に就寝前に丁寧に歯みがきをするのがよい。すると、むし歯に最もかかり易い睡眠時には歯がきれいな状態が保てるので、むし歯予防には極めて有効になる。朝食後や昼食後は忙しさとの兼ね合いで歯の手入れの度合いを決めればよい。
3)
学童期 −特に6歳臼歯の歯みがき−
 第一大臼歯は6歳ごろに第二乳臼歯の後ろに生える永久歯で、一般に6歳臼歯と呼ばれている。この歯は子ども時代から生涯にわたり咬み合わせを決める大切な歯であり、「咬合の鍵」といわれている。永久歯は乳歯と異なり、抜け換わることがなく、とても長い間使う歯なので、むし歯や歯周病にかからないように一層大事にケアしたい。
 乳歯も永久歯も生えた直後が最もむし歯になりやすい。特に6歳臼歯は生える場所がその時期の子どもの口の中の一番奥なので、とてもみがきにくく、歯ブラシできれいにするのが難しい。さらに食物を噛み潰す面(咬合面)が複雑な形をしているなどの理由で他のどの歯よりもむし歯になる率が高い。
 歯垢はむし歯や歯周病の原因菌を含む細菌などで作られているので、これらの病気の予防には歯の表面をきれいにして歯垢を取り除くことが大切である。子どもも学童期になれば、このような歯の手入れの重要性を理解し、歯みがきの自立も出来るようになる。しかし、6歳臼歯が生えて間もないころは乳臼歯と段差があって、歯ブラシの毛先が咬合面まで届かないことが多く、きれいにみがくのは難しい。そこで、始めのうちは親に確認してもらうか、親に手伝ってもらうと良い。毛先が届きにくい時は、6歳臼歯だけをみがくように、歯ブラシを前からでなく、横から入れてみがくと良い。しっかりみがけているかは、赤い歯垢染色液を使って6歳臼歯の咬合面を染めてみると確認できる。歯と歯の間の歯垢は歯ブラシだけでは除けないので、デンタルフロス(糸楊枝)を使って、時々みがくことを忘れないようにする。子どもが自分で歯をみがく時は、歯ブラシを前後に動かすスクラッビング法がよごれを取るのに最も効果的である。
 歯ブラシでしっかりみがけば歯の普通の表面はきれいになるが、6歳臼歯の咬合面の複雑な溝に入り込んだ歯垢を歯ブラシだけで取り除く事は簡単ではない。そこで、生えたばかりの6歳臼歯にはフッ化物を塗布したり、複雑な溝を埋めてしまうシーラント(予防填塞)で歯そのものをむし歯に罹りにくくする方法も併用することを勧めたい。また、むし歯や歯肉炎になるのは歯みがきが正しくできていないことの他に、好ましくない食生活習慣も大きく関係している。正しい生活習慣に加え、正しい歯みがき習慣を身につけることによってこれらの病気から6歳臼歯が守られることを忘れてはいけない。
 ところで、歯みがきは歯の表面をきれいにするために行うが、歯垢の色が歯の色と区別しにくいため、実際によくみがけているかは確認が難しい。さらに、歯ブラシの使い方によっては歯肉や歯そのものも傷つけることがある。そこで、ときどき歯科医院で歯みがきの方法と効果をチェックしてもらい、アドバイスを受けることを勧めたい。

2.歯ブラシの選び方と歯みがきペーストの使い方

1)
子どもの歯ブラシ
 子どもの歯ブラシは次のような条件に基づいて選ぶようにする。先ず、口の中で操作が容易であるために、小型のものが望ましい。幼児期には親が歯みがきをすることが多いので、親がみがきやすい歯ブラシを選ぶのが基本である。一般に植毛部は乳臼歯1.5本分前後(15〜17 mm)で、毛足は短めのものが適切である。学童期になれば歯みがきを自分でできるようになるので、子どもが使いやすい歯ブラシにするが、基本的には親が点検みがきをするときにみがきやすいものを選ぶ。植毛部は口の大きさに比例して大きくしていくが、学童ではおよそ乳臼歯2本分以内(18〜20 mm)で、毛足は8〜10 mm 程度のものが使いやすい。
 毛は中等度の硬さで腰がつよいものがみがきやすい。歯ブラシはしばらく使うと毛が反ってくるが、植毛部の合成樹脂の土台より毛先がはみ出すようになったら交換したい。幼児期には歯ブラシを噛む習慣がつく子どもがいるが、この癖は長くは続かないので、その間だけは歯ブラシの交換をこまめにする。
 歯ブラシの柄(把持部)は様々な形のものが市販されているが、ストレートで握りやすいものが推奨される。柄の断面が円形に近い棒状のものは毛の抵抗で回転しやすい。板状の柄の方が握った時に安定し、使いやすい。
2)
歯みがきペースト
 最近の歯みがきペーストはフッ化物が配合されているものが多く、むし歯予防に効果があると考えられている。しかし、その他にも種々の研磨剤や発泡剤、清涼剤等が含まれており、歯みがき時に飲み込んでしまう事は好ましくない(子どもだけでなく、大人にも当てはまる)。幼児期前半までは寝かせみがきが推奨され、このみがき方ではうがいはできない。そこで、この時期には歯みがきペーストは使わないようにする。立位のスターキーズポジションでの歯みがきに移っても、うがいが上手に出来ない子にはやはり歯みがきペーストは使わない。うがいが上手にできるようになったら歯みがきペーストを使い始めるが、どの商品も発泡剤と清涼剤が入っているので、口に入れると殆どみがかないうちにさっぱりした感じになってしまい、みがき方が不足する心配が出てくる。そこで、少なめのペーストをつけて、しっかりみがくように指導する。理想的には、先ず歯みがきペーストをつけないでみがき、その後で歯みがきペーストをつけて仕上げみがきをすることを推奨したい。

3.子どもの歯みがき習慣

 歯みがきは、体や頭を洗うことと同じ生活習慣である。体や頭を洗うことは、親と子が一緒に風呂に入って遊びながら、親が洗ってやっているうちに、子どもが自分で洗えるようになる。歯みがきも、風呂に入って一緒に遊ぶときのように、習慣になるまでに親子の楽しいやり取りができるとよい。子どもの行動を見ていると、子どもは1歳前から親の真似をしてスプーンなどを自分の口に入れたり、親の口に入れたりするのが好きである。したがって、この時期から親が歯ブラシを使うのを見せてやり、子どもも真似して歯ブラシを口に入れるような遊びができるとよい。また、人形やぬいぐるみで遊ぶときも、歯ブラシを使って歯みがきごっこができると楽しいかもしれない。ただし、歯ブラシを口に入れたまま転倒すると、歯ブラシが上顎や頬に突き刺さるなど重大な事故につながるので、椅子に座らせたり、親が抱えた状態で歯ブラシ遊びをさせるようにし、決して親の監視のないところで歯ブラシ遊びはさせないようにする。
 楽しくて気持ちのよいことが習慣として身につくので、楽しくて気持ちのよい体験をさせる。ちなみに、親に声をかけられるとそれなりに一人で歯みがきができるのは、3歳で約60%、4歳で約70%であるといわれている(平成12年度幼児健康度調査)ので、少しずつ習慣が身につけばいいという気持ちで気長に進めていくとよい。

まとめ

 親子のふれあいの場として楽しい雰囲気で行われるべき歯みがきが、嫌がる子を無理にみがくなど、親子のストレスとなっていることもある。家族の協力の下で楽しい雰囲気をつくり、楽しくて気持ちのよい歯みがきが身につくように、慌てず焦らず、口の機能と歯の生え方をみながらガーゼみがきなどから始め、徐々に歯ブラシに慣れさせるようにする。
 多くの家庭ではお父さんが子どもとふれあう時間はまだまだ少ない。不足しがちな父子のスキンシップとして就寝前の歯みがきは格好の手段にもなる。歯みがきが自分でできるようになるまで、親子の大切なふれあいの時にしたい。