学会からの提言

小児科と小児歯科の保健検討委員会

歯からみた幼児食の進め方

小児科と小児歯科の保健検討委員会
平成19年1月25日

1.はじめに(背景と問題点)

 子どもが食物を正しく噛むことを学習することは、子どもの咀嚼機能の発達と食育の面からみて重要なことである。基本的には食物を前歯で噛み切り、奥歯(臼歯)で噛みつぶす。母子健康手帳では離乳完了は15か月(1歳3か月)と記載されている。ところが第一乳臼歯が生え始めるのは1歳4か月頃で、上下の第一乳臼歯の噛み合わせが完成するのは1歳8か月頃である。乳臼歯が生えるまでは子どもは歯ぐきや前歯で食物を噛んでいる。このような状態のときに奥歯を使わないと噛みつぶせないような硬い食物を与えると、適切な時期に、適切な咀嚼機能の獲得に繋がらない可能性がある。奥歯で咀嚼することを学習するのは1歳6か月頃から、3歳の間であると言われている。母子健康手帳には離乳完了、幼児食や歯の健康と歯みがきの記載はあるが、小児の食育に重要な「歯からみた幼児食の進め方」の記載はみられない。
 そこで、この問題を整理するため、子どもの歯の萌出と咀嚼機能の発達ならびに食形態について検討し、まとめた。

2.乳歯が生える時期

 子どもの歯が生える時期は人種や地域・国などで差がある。日本人の子どもは白人の子どもより歯が生える時期は遅い傾向がある。したがって、欧米のデータを参考にすると、生えるのが遅れていると判断してしまう可能性があるので注意が必要である。ただし、欧米でも近年の報告によると生える時期が以前より遅くなっているので、欧米人との差は小さくなっている。
 日本人の子どもは、最初に下の前歯(乳中切歯)2本が生後8か月で生え始める。次に上の前歯2本が生え、その横に乳側切歯が、次いで下の乳側切歯が生える。乳側切歯を含めた上下それぞれ4本の前歯の中で最も遅く生えるのが下の乳側切歯で、生える時期はおよそ1歳である。噛む運動の発達に関係すると言われている奥歯(乳臼歯)のうち、最初に生える臼歯(第一乳臼歯)は1歳4〜5か月で生え始めるが、上下の第一乳臼歯が生え揃うのは1歳8か月頃である。白人の子どもはこれより早い1歳0〜2か月で生え始める。咀嚼リズムは、主に臼歯歯根膜にある圧受容器からの刺激が脳に送られて咀嚼の力や回数が調節され、上下の奥歯が噛み合うことで獲得されていく。歯は生え始めてから反対の歯と噛み合うようになるまで数か月かかるので、第一乳臼歯が噛む機能を営むようになるのは1歳8か月以後になる。乳歯の一番奥の臼歯(第二乳臼歯)は2歳3〜6か月で生え始め、2歳9か月頃上下が生え揃うが、白人の子どもより平均で6か月も遅い。従って子どもが大人に近い咀嚼機能を獲得するのは3歳過ぎ頃である。

3.歯の萌出と咀嚼機能の発達

 子どもの栄養摂取にかかわる機能は,新生児期の吸啜から、離乳期を通して学習し獲得する咀嚼へと変化していく。初期の吸啜は反射によるものである。この時口唇や顎の動きは顕著ではなく,舌が活発に動く。乳児の発達とともに,哺乳のための反射は徐々に減弱し,生後4〜6か月頃で消失する。この頃,舌の挺出反射もなくなるため,スプーンからの食べ物の取り込みが可能になり,離乳が開始される。
 乳切歯が生え始める頃には,歯を支える骨(歯槽骨)の成長も著しく,顎のアーチ(*1)が拡がるとともに高さも増すため,舌が口の中におさまって動きやすくなる。上下の乳切歯が生えてくると,口唇と舌の動きが分離するようになり,舌で食べ物を押しつぶすことができるようになる。1歳頃には奥歯が生える前段階として歯ぐきの膨隆がでてくるため,奥の歯ぐきで食べ物をつぶすことができるようになる。歯ぐきで食べ物をつぶすためには舌と顎の連動が必要となり,咀嚼の基本的な動きが獲得されてくる。歯ぐきでつぶせるようになると,やや硬さのあるものが食べられるようになり,手づかみで食べ物を口にもっていったり,上下8本が揃った乳切歯で咬み切ることが可能になる。
 1歳前半には第一乳臼歯が生え始めるため,奥歯を使った噛む動きがでてくる。1歳8か月頃には上下の第一乳臼歯の噛み合わせができあがって,噛みつぶしも上達するが,まだすりつぶしはうまくできない。2歳すぎには,第二乳臼歯が生え始め,2歳半すぎには上下が咬み合って,乳歯列の咬み合わせが完成する。第二乳臼歯が咬み合うことにより,食べ物のすりつぶしが可能になり,殆どの食品が食べられるようになるとともに,咀嚼の力も増大する。食べ物の大きさ,硬さの情報は,主に臼歯歯根膜にある圧受容器から脳に送られ,咀嚼の力や回数が調節される。上下の奥歯が咬み合うことで大人に近い咀嚼リズムが獲得され、硬さのあるものも食べられるようになる。

4.歯の生える時期と幼児食

 離乳完了の頃から、歯を使った咀嚼機能が発達する。この頃は形があるが軟らかい食品、例えばおでんの大根、煮込みハンバークなどを与えることができる。上下の第一乳臼歯が生え揃ったら噛みつぶしができるので、それほど硬くない食品、例えば卵焼き、コロッケなどが食べられる。噛みにくい食品、例えばもち、たこ、こんにゃく、油揚げなどの食材(*2)やとんかつ、ステーキのような料理は3歳すぎまで控えるようにする。このような食品でも調理を工夫して噛みつぶせる柔らかさにすれば食べさせてもよい。
 幼児期は子どもの咀嚼機能と食習慣を育てるのに重要な時期であるので、食物の硬さだけでなく、いろいろな種類の食品を工夫して調理し、味覚が豊かで楽しく食べる子の基礎を育てることが重要である。

5.心理面からみた幼児食の進め方

 食事場面は心の発達と健やかな心身の成長にとって大切である。親に抱えられた安心できる環境のもとで、親の作った食べ物を一緒に味わいながら、甘い、塩からい、にがい、すっぱい、やわらかい、かたいなどの味覚や食感が発達する。また、家族や仲間と一緒に食事を楽しむという社会性が発達する。さらに、自我の発達につれて食べ物の好き嫌いがはっきりしてくるが、この好き嫌いをめぐって親子がやりとりしていくことで,子どもは主張することと我慢することのバランスを覚えていく。親は、このような心の面からも食事場面の大切さを考慮し、食機能の発達に合わせた食べ物を子どもに与えると同時に、楽しいやりとりをしながら一緒に食べることを心がけることが大切である。

〔提 言〕

 離乳完了は15か月となっているが、大人のように硬いものがうまく噛めるのは3歳すぎである。さらに、日本人の歯の生える時期は、以前に考えられていたよりも遅いことが最近の調査で判明した。幼児期は子どもの咀嚼機能と食習慣を育てるのに重要な時期である。そこで、歯の生える時期と幼児食の進め方に関して次のことを提言する。

1.
上下の奥歯(第一乳臼歯)が生え揃う前に硬い食物を与えると、噛まない、丸呑みをする、硬いものが嫌い、偏食がある、などの子に育つことがある。丸呑みで食べる子は過食しやすく肥満の原因になるとも言われている。
2.
幼児食は歯の生え方、ことに奥歯(第一乳臼歯)の生え方を見ながら進める。生え揃うまでは形があるが軟らかい食品、例えばおでんの大根や煮込みハンバークなどの食品を食べさせる。上下の第一乳臼歯が生え揃ったら噛みつぶしができるようになるので、それほど硬くない食品、例えば卵焼き、コロッケなどが食べられる。噛みにくい食品、例えばもち、たこ、こんにゃく、油揚げなどの食材やとんかつ、ステーキのような料理は3歳すぎまで控えるようにする。このような食品でも調理を工夫して噛みつぶせる柔らかさにすれば食べさせることができる。
3.
幼児期は子どもの咀嚼機能と食習慣を育てるのに大切な時期である。お母さんと一緒に楽しく食べると唾液の分泌が促進され、食物が食べやすくなり、よく噛んで、味わって食べる子に育つ基となる。いろいろな種類の食品を工夫して調理し、味覚の豊かな、楽しく食べる子に育てましょう。これが食育の第一歩です。

〔一言アドバイス:お母さんへのアドバイスのヒント〕

臨床心理士より
 食事の時間は親子が楽しむ貴重な時間でもあります。一緒に、ゆっくり楽しみながら食べて、体を育てるだけでなく、安心できる親と子の心のつながりも作ることが重要です。
小児歯科医より
 離乳食から固形食に変わっていくときには、お口の中を見てあげてください。奥歯が生えていなくて噛めないのに、硬い食べ物がどんどん入ってくると噛まないで飲み込む癖がついてしまいます。逆に、噛めるようになっているのに、いつまでも軟らかい食べ物しか入ってこないと、噛む気が無くなってしまいます。
 「何か月になったからこんな食べ物を与える」のではなくて「この歯がはえて食べられるようになったからこんな食べ物を与える」ようにしてください。

※ 1:顎のアーチ

生後5ヶ月の乳児の上顎の写真。矢印が「顎のアーチ」で、ここに将来乳歯が並ぶ。

※2:離乳期から幼児期前期の子どもが苦手な食材

1)
ぺらぺらしたもの・・・レタス、わかめ
2)
皮が口に残るもの・・・豆、トマト
3)
硬すぎるもの・・・かたまり肉、えび、いか
4)
弾力のあるもの・・・こんにゃく、かまぼこ、きのこ
5)
口の中でまとまらないもの・・・ブロッコリー、ひき肉
6)
唾液を吸うもの・・・パン、ゆで卵、さつまいも
7)
匂いの強いもの・・・にら、しいたけ
8)
誤飲しやすいもの・・・こんにゃくゼリー、もち

〔小児科と小児歯科の保健検討委員会構成員(あいうえお順)〕

伊藤 憲春 日本小児歯科学会関東地方会・ミルク小児歯科
井上美津子 日本小児歯科学会・昭和大学歯学部教授
太田百合子 管理栄養士・こどもの城小児保健部
小口 春久 日本小児歯科学会・日本歯科大学生命歯学部客員教授
塙  佳生 日本小児科医会・塙小児科
巷野 悟郎 日本保育園保健協議会・こどもの城小児保健クリニック
河野 陽一 日本小児科学会・千葉大学大学院教授
高木 裕三> 日本小児歯科学会・東京医科歯科大学大学院教授
◎前川 喜平 日本小児保健協会・神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部教授
前田 隆秀 日本小児保健協会・日本大学松戸歯学部教授
松平 隆光 東京小児科医会・松平小児科
丸山進一郎 全国小児歯科開業医会・アリスバンビーニ小児歯科
吉田 弘道 臨床心理士・専修大学文学部教授
(◎:代表、○副代表  平成19年1月25日現在)